バーマン 柳野浩成さん
vol.25 2012.02.01
その一杯が詩になる時。
酒陶 柳野
柳野 浩成さん

VATE:柳野さんは芸術家みたいなもんですよね。

 

でもね、僕自身はアーティストではないですね。それは早くから気付いてるんです。何も知らずに、バーを始めて二人の師匠にいろいろ教えてきてもらって、おかげで自分自身はクリエイターじゃないんだって早く気付けたんですよ。

 

VATE:そうなんでしょうか。

 

音楽でもそうです。オリジナルもいっぱい作ってたんですけど本当にいろんな引き出しを開けて、切り貼りしただけなんです。やっぱりアーティストというのは、先人がやってきた物をひたすら模倣して勉強して敬意をはらって、こうでもないとずっとやっていて吸収してそれを切り貼りじゃなくて、ごごごっと横へ圧力をかける、そういうのが僕はアートだと思うんですよ。

 

VATE:横へ圧力をかける?

 

哲学者でアートとは、ずらす行為だと。そう言ってる人がいて、ああ、そういうことだって僕は思ったんです。そう意味では、僕はアーティストにはなれない。僕がなれるとしたら、ディレクターなんです。

 

VATE:ディレクターといいますと?

 

こういう盛りつけで、こういうお酒。僕が器をいろいろと集めてきて。せめてスタンダードカクテルはきっちり作る。それはアーティストじゃなくても出来るはずですよね。物作りというのは必ずしもアーティストである必要は無いと思うんですよね。

 

VATE:物作り、と捉えるとそうですね。

 

建具屋さんも物作りしてますし、大工さんもみんなそうですよね。あの人たちって別にアーティストじゃない。そういう意味で僕はバーテンダーという衣を着させてもらってバーテンダーとしてスタンダードカクテルを、自分はちゃんと美味しく作ろうと努力しているんです。そうじゃない柳野としては店の中のディレクターであり、コーディネ-ターであり、そのレベルは超えないんです。

 

VATE:なるほど。

 

でもそういう事をしながらも、最終的にポエットになれたらいいかなあと思ってます。

 

VATE:個としての柳野さんが目指されているところですね。

 

哲学なんかは、みんなポエムだと思うんです。フランスなんか特にみんなポエムなんですよ。理論家じゃないんです、みんなポエットなんです。アーティストでもない。みんな詩を紡いでいるような人たちなんですね。

 

VATE:ええ。

 

文学とすれすれみたいなね、フランス哲学って。最終的に僕もそんな位置にいれたらいいかなって。自分の作ったお酒とか、自分がディレクションした料理だったり器だったり、最終的に僕の詩としてお客さんに味わってもらいたい、そういうのんですかね、そこですね。

 

VATE:柳野さんから聞くと、とても自然に聞こえるから不思議です。

 

僕の好きなワインなんか飲んでたら言葉がいっぱい出てくるんですよ。感動して心が震えてきて、喋らずにはいられなくなってくるんですよね。それくらい情熱とか知性が詰まっているワインってあるんですね。そういうワインに出会えたし、出会える為の研鑽を積んで来れたし、そういうものを飲んでお客さんに語りたいですね。そういう仕事をしたいねえって。

 

VATE:今夜はとてもいい夜でした!ありがとうございました!