photo by YOSHIDA YOKO

自分のやり方に限界を感じた。

VATE:成功はかなり確かなものになると。

 

当然ながら予想に反して、どこかで”ブレ”が出ます。成功には「軌道修正」がかかせません。この修正がうまくいくかどうかが本当の勝負です。また、番組自体にいくつもフックがあれば、下手に内容をPRしたり、無用な広告展開しないほうが効果的なことが多くあります。無駄な広報活動自体を、「排除」していきます。

そうすると、本当にすべきことだけが残り、仕事の幅を「限定」することで広報活動の純度が高まります。いつからか無意識のうちに「察知(差別化)と集中」「修正と排除」「限定」ができるようになりました。

 

VATE:その後、スポーツ番組の広報を担当されますね。

 

ええ。ジャイアンツ戦の広報は社内でも花形の仕事だったのですが、そこを担当することなりました。しかし、ジャイアンツ人気というか、プロ野球の人気自体がファンの心から離れ始めているのではないかと報道され始めた時期でもありました。たくさんの「フック」となる情報を集中してどんどん伝達すれば、多くの人から支持してもらえると確信していましたが、今までの手法で宣伝をやっても中継の視聴率が上がらない。今まで自分のやり方に限界を感じました。

 

VATE:プロ野球に足りなかったものがあったと。

 

そうかもしれません。メジャーリーグに移籍した日本の選手が気軽にスタジアムでファンにサインをする映像を見て、「ファンサービス」というものに関心を持ち始めました。日本の野球にはそういうサービス精神が足りなかった。例えば、グッズをファンに配る時にも、量とか豪華さよりも、これからファンになってくれるであろう子どもたちが喜ぶようなグッズを配らないといけないんじゃないかと考え、ファンサービス的な企画をいくつかやらせてもらいました。徐々に手応えを感じてきました。

同時に「広報・宣伝」というかたちとは違うコミュニケーション、「カスタマー・リレーション」を一度経験してみたくなりました。

 

VATE:カスタマーリレーションとはどういうものですか?

 

私にとっての「カスタマー・リレーション」というのは、まず、顧客の動向や、購入後の問題点などを把握すること。そして、優れたサービスやサポートを提供し、繰り返し製品を購入してもらうことです。

「製品が売れれば良い」という一方的な考えではなく、製品を購入してもらうことで最終的に「満足」してもらって、次回も、そのまた次も購入してもらおうという「ファン作り」に近い行為です。

 

VATE:なるほど。

 

アップル社のマッキントッシュ(Mac)というコンピュータがあります。当時のアップルの社長から、カスタマーリレーションを強化して、これまでの顧客を大切にしつつ、新たなファンも拡大していきたい、という話を聞かせて頂いたんです。純粋に挑戦したいと思いました。ユーザーが必要とするサポート情報や製品情報などを把握し、ユーザーの立場で、メール、ウェブ、コールセンターなどの手段を使って提供するという、まさに「インタラクティブ」なコミュニケーションでした。コスト感覚も必要ですが、サービスの向上のために、自分が直接、顧客の声を聞く機会もありました。アップルでは「Macだから買おう」という顧客の想いを、肌で感じることができました。