織機

「テクスチャーによって衣服を表現する」

VATE:それは大変な時期ですね。

 

正直いうとその頃の僕は、胸に秘めた決意とは裏腹に、ちょっと自分を見失いかけていた頃でもあると思うんですよ。つくり手として何を表現していきたいのかということよりも、業績を維持するため、目先の課題にばかり追われていたんですね。もちろんそれも大切なことですが、その時期僕のなかでは、そのことばかりが大きくなって、ね。

 

VATE:なぜそうなったんでしょうか。

 

自分が何をすべきかと考えた時、僕の場合は家業の中の自分、という意識がすごく強かったんだと思うんです。自分のことだけ考えるのでなく、家業に 関わってくれている人たちのことも考えねば、と。ただ、いくら心でそう思っていても、現実的に和装の落ち込みをすべて補うという事は難しかったんです。それで業態はどんどん縮小をしていきました。人もだんだん辞めて行かれましたよね。外面は、「去る者追わず」って顔してましたけど、内心はやっぱり傷ついてましたよ。中には僕が幼い頃、かわいがってくれてた人もいましたから。

 

VATE:もどかしく、苦しい時期でもあったわけですね。

その後どうされたのですか?

 

2003年の夏、materialismをはじめました。ひなやの仕事のうち、僕が一から関わって、それなりの規模に成長したカタログ販売部門を、ひなやから「materialism」という新会社に移管して、それを主たる事業にあてつつも、一方でつくり手として「materialism」という自らの媒体を育成しながら、僕らの染織技術をよりよく、たくさんの人たちに伝えていこうと考えました。

 

VATE:新しいブランドを立ち上げられたわけですが、

このブランドではどのような製品を作られているんですか?

 

materialismでは「どのような製品をつくるか」というより「どういう姿勢で製品をつくるか」を大切にしたいと思っています。素材のオリジナリティーで勝負する。生地素材、つまりテクスチャーによって衣服を表現するってことを目指しています。

 

VATE:マテリアリズムのテキスタイルは他とどう違うのですか?

どのように染めて、どのように織っているのでしょうか?

 

織機は、手機を発展させたものです。ゆっくりとしたスピードで、糸にテンションをかけすぎずに織るので、とても風合いのよい生地ができます。手織機を自動化した独自のものです。自分たちで考案しました。それを用いて生地を織っています。