制作風景

「なろう」と思ったのではなく、徐々に「なっていった」

VATE:いつ版画家になろうと決意されたんでしょうか?

 

版画家にはある日突然、「なろう」と思ったのではなく、徐々に「なっていった」と言う感じです。

でも妻に言わせれば、出会った最初の日から「版画、版画」とうるさかったと言っていますから、一生懸命打ち込んでいたことは確かです。

 

VATE:もし出会った先生が徳光先生でなかったら、版画家になっていなかったかもしれなかったと思われますか?

 

NOです。版画そのものに魅了されたのです。他の先生から習っていてもきっと版画家になっていたと思います。当然、創るものは違っていたでしょうが…。

 

VATE:なぜそんなに版画に魅了されてしまったんですか?木版画の魅力ってどういう所にあるんでしょうか?

 

版画に魅了されたのは、やはり木版画のもつ暖かさゆえですね。平面芸術である、そして、複数制作が可能であるという、写真と共通する点でまずスッと入っていけたと思います。それから手を動かして作品を創るということに面白味を感じました。100%手作りの世界です。それと道具も材料も自然の素材でできているので暖かみがある。そして、できた作品もとても人間的。

それまで扱っていた、カメラやレンズなどのメカニカルなものや薬品で処理する行程とはまったく違っていました。なにもかもが自然なのがいいですね。

 

VATE:版画家として生計を立てて行くことに不安はありませんでしたか?

それとも、版画に対する情熱の方が上回っていたんでしょうか。

 

不安はまるでありませんでした。何としてでも生きていけると思っていました。

贅沢はもちろんできませんが、好きな版画をやるのですから、貧乏は覚悟していました。

 

VATE:今日に至るまで版画家としてやってきた中で一番苦労されたのはどんな点ですか?

芸術家として、一人の人間として。

 

単純じゃないですね、この質問は。本が一冊書けるよ(笑)。

でも一番つらかった時はいつかと考えてみると、10年前にスランプに陥った時でしょうか。創造力が枯渇して、何もアイディアが出てこない。もう版画家をやめようと真剣に思いました。それまで20年くらいやっていた事がふいに無意味に思えて、人生全体を振り返えざるを得なかった。それで、みんなに「もう版画家は廃業します」と。

妻や友人は「ウソー!」と驚いていましたが、私は真剣そのもの。さっそく仕事をさがして、西陣の会社に就職しました。10年間とにかく版画以外のことをして、自分を見つめ直そうと思ったのです。