金沢21世紀美術館
撮影:中道淳/ナカサアンドパートナーズ
写真提供:金沢21世紀美術館

「あの場でしか生まれないような調和が生まれたらいい」

VATE:思った通りに出来たという感じでしょうか。

 

やれてないことは沢山ありますけど、あの時に思ったことをよく妥協せずにやりきってるんじゃないかと思います。

 

VATE:地中美術館をつくる時に意識されていたことはなんでしょうか。

 

これは絵、これは彫刻、これは建築というようにジャンルでわけて分断して一個一個をオブジェとして見るのではなくて、一つの連続した経験みたいなものとして、ああいう空間をつくりあげたいという想いはありましたよね。

 

VATE:一連の経験として。

 

森を歩く時にいちいち、この木、この草っていう風に、まぁそういう風にも見ますけど、でも常に全体に戻りつつ部分というのが成り立っているじゃないですか。

そういう有機的な関係の中で、ある経験として美的な空間を作り出したい、という想いがあったんですね。

 

VATE:なるほど。

 

そういう意味では安藤さんの建築、ジェームズ・タレルの作品、ウォルター・デ・マリアの作品、モネの作品ってもちろんそれぞれが非常に強くね、個性的でキャラクタナイズされてなきゃいけないんですが、その個々の強さを超えたところにある一つの調和したもの、地中美術館ならではの空間が生まれてきたら良いなというのはあったし、例えば、すごいクラシックのプレイヤー…、バイオリニストとかピアニストがいて、もちろん一人ですごい演奏をするんだけど、それがある機会にカルテットを組んだ時にすごいハーモニーが生まれるみたいな、そういう風にあの場で四人が組んだんだと。まぁモネは死んじゃってますけど、その中で何かソロでは出来ない、あの場でしか生まれないような調和が生まれたらいいな、と最初から最後までずっと思っていましたね。

 

VATE:その後、地中美術館の館長を退任されるわけですが、これはどうしてですか?

 

直島にはかれこれ15年ほど関わってきて、これぐらいでちょっと一度休みたいというのが正直あったんですよね(笑)。自分を振り返りたいというか。はじめは本でも書こうかなと思ってたんですけど、運よくというか金沢21世紀美術館に誘われて市長とお会いしたら、気に入ってくれたんですね。一つのチャンスだし、金沢21世紀美術館の開館がちょうど同じ年なんですよ。地中美術館とね。

 

VATE:ただコンセプトは全く違いますよね。

 

ええ。21世紀美術館は「開かれた美術館」、地中美術館はそうではない。地中美術館のような閉じきった場所から、開かれた美術館でやっていくというのも面白いかなと思ったんですね。

 

VATE:今までと違うのは、もう既に出来上がっていてコンセプトもあってというところですよね。

 

そうですね。金沢21世紀美術館は、私が2代目館長になるので出来上がったものがあるわけです。私が着任した時はオープンから3年目くらいだったんですが、オープン以来ずっとそのままの勢いで展覧会をやってきていた。だから走りながら一回車検じゃないですけど、本当に必要かどうか、どこに軸足を置いて行くのかという総括的な事をやりつつ、次の展望を作る時期なのかなと思いましたね。