photo by YOSHIDA YOKO

驚くべきコミュニケーションの進歩がある。

VATE:時間も大切だと。

 

「時間」という軸でのコスト意識を持つことは、テレビ局での経験からで得た貴重な感覚でした。日本テレビを退社したときから、いずれはエンタテイメントの世界に戻ろうと思っていました。「アップルだから」転職したのであって、将来、他のコンピュータ会社で働こうとは少しも思いませんでした。

また、他の仲間たちと同様、アップルで一生働くとも思っていませんでした。自分にとってアップルは高校や大学のような通過地点でした。

 

VATE:アップル退職後、MTVジャパンへと移られますね。

 

MTVでは、これまでの自分の経験を総動員しての「応用力」が試されています。ブランド力のなさを言い訳にすることはできません。MTVでは「多チャンネル化」「インタラクティブ」「グローバル化」という3点にコミュニケーションのポイントをフォーカスしています。放送だけではなく、イベント、インターネット、モバイル、フリーペーパーなど、さまざまな方法で視聴者(顧客)との接点を広げていく「360°展開」を実施しています。MTVのブランドイメージをさらに高めながら、どうすればもっと多くの人に知ってもらい、実際に加入して見てもらえるのか、MTVの「魅力」についてテレビ、雑誌、Webなどを通じて、「コミュニケーション」しています。

 

VATE:テレビが社会に悪影響を与えている、という見方がありますね。

 

それについては冷静に考えてみなくてはいけません。大抵の人にとってテレビ放送とは、ちょっとしたヒマ潰しか、休日の娯楽程度のものです。また「その程度」のもので良いのです。ただ、気を付けなくてはならないのは、テレビを見る側の「バランス感覚」だと考えています。

 

VATE:バランス感覚ですか。

 

「食べ物」で考えてみれば良く分かります。ある食品が有害か無害かという問題とは全く関係なく、ある食品ばかりを食べ続ければ身体によくない事は当たり前です。食べ物のことになると、「バランスよく何でも食べなさい」と人はいいますが、コミュニケーションのことになると「バランスを気を付けろ」という人は聞いたことがありません。

 

VATE:テレビがその程度のものになるにはどうすれば良いのでしょうか。

 

テレビだけでなく、他の色々な種類のコミュニケーションを経験していると、テレビにそれほどパワーがあるとは思えなくなるはずです。自分にとってのテレビの相対的なパワーは弱くなります。つまり、テレビは晴れて「その程度のもの」になります。テレビが「その程度のもの」になれば、テレビの放送から「違和感」を感じる「感性」を保ちつづけることができます。

 

VATE:なるほど。

 

テレビを「見る・見ない」の問題ではなく、「テレビ」を相対化できるかどうか。テレビも含めた「コミュニケーション」をバランス良く行っていけるかどうか。このことはとても重要で、一個人としてだけではなく、社会全体に影響を及ぼします。私はテレビの更なる発展と同時に、テレビ以外のコミュニケーションの発展を望んでいます。自分の子供の世代には、驚くべきコミュニケーション上の進歩があるものと真面目に信じています。今の時代の持つ、閉塞感を「コミュニケーション」というキーワードで打ち破れるものと思っています。そういう意味でも自分の子供も含め、子供たちには色々なコミュニケーションを小さい頃から経験して欲しいと思っています。