ブダガヤにて

VATE:スタートもできない状況だったと。

 

ええ。でもそんな時、ひょんな事で知り合ったおばあちゃんが「いいお坊さんを知ってるから紹介してあげるよ」と私を真言宗の大本山寺院・隨心院というお寺に連れて行ってくれました。そして、そこでお会いした方が英さんという主事の方でした。お話させていただくうちに、私が卒業した大学の先輩だということがわかり、その方は「私の後輩という御縁やし、もしよかったら勉強がてらこのお寺に手伝いにきてみるか?」とお声をかけて頂きました。

 

VATE:しかし前田さんは浄土宗ではないのですか。

 

そうなんです。このお寺は真言宗の大本山であり、宗派の違いについて問題がないか尋ねてみると「宗派は違うが、元々は仏教はインドでお釈迦様が開いたものだから、私達の教えは元々は一緒なんだからね。」と言ってくださいました。それから数日後、英主事から連絡を受け、週2回隨心院でお手伝いさせて頂く事になりました。

 

VATE:では仏様はそこで彫られたのですか?

 

隨心院へお手伝いをさせて頂いてしばらくたった頃、英主事に「実はインドへ持っていくお釈迦様を粗彫りする場所がないんです」とお話させていただいたところ、「隨心院に二条の間という部屋があるから、その部屋を使ったらいいよ。ちょうど拝観で来られる観光客の方々に仏様を彫る所を見て頂くという事も僧侶としての一つのお説法だからね。」と言ってくださいました。私にとっては願ってもないチャンスでした。そして、材木を隨心院二条の間に持ち込み、お釈迦様の制作への第一歩を始めることができました。

 

VATE:その仏様の制作にはどれぐらい時間がかかったんですか?

 

本格的な制作期間としては丸1年でした。ボランティアということもあり、3年間ほどのお時間をいただきたいということを伝えていたのですが、「本堂も完成するし、現地の人が待ってるから」ということで、3年が1年の期間限定となってしまいました。

 

VATE:それは厳しかったんではないですか?

 

ええ。正直なところ、等身大という大きさで約1年間で仕上げるということは、時間的にも経済的にも厳しく、悩むことも多く、つらい時期もたくさんありました。またそのような中、彫らせていただく事にどのように集中して大切な役目を果たすことができるのか、と悩んでいました。初めてのボランティア、初めての等身大、初めてご本尊を彫らせていただく…など初めてづくしの不安は、隨心院で彫らせていただくということで自然に恵まれた隨心院のパワー、拝観にいらした方々からの励ましなどによるパワーにより助けられ、完成に至ることができました。