阿弥陀如来

その方の気持ちになりかわって彫る事が何より大切。

VATE:前向きに夢に向かって踏ん張ってこられたわけですね。

はじめてのお仕事はいつ頃やってきたんでしょうか。

 

仏様を彫り続けていた26歳の時です。友人のお父様から亡くなられたお母様の化身の仏様を彫ってほしいという依頼でした。トラックドライバーをしながら、初めて注文いただいた仏様を彫る事になりました。

 

VATE:26歳ではじめて注文が来たんですね。

 

しかし、しばらく続けているうちに、せっかく彫るご縁をいただいたのに、このまま一日の中心をドライバーとして続けることが、申し訳なくなってきました。そして、思い切ってドライバーの仕事も早朝から正午までにさせてもらい、午後からは彫刻に専念し始めました。「もう後にひけない」とさらに強い覚悟を決めた時期でもあり、道が開けていくのではないかと思い始めていました。

 

VATE:覚悟を決められてから、何か変わっていきましたか?

 

仏様を彫るという事が「自分で思い描いた通りに彫る」という事ではなく、相手様がいるということで、その方の仏様への願いを心で受け止めて彫りあげなくてはと強く思うことができるようになってきました。腰を据え、相手様の気持ちを念じながらノミを入れ始めました。それまでは仏様の姿、形に精一杯の気を配ることに必死になっていましたが、ご依頼いただいてからは、依頼していただく方の願いに忠実になり、その方の気持ちになりかわって彫る事が何より大切な事に気づきました。

 

VATE:姿形より想いの方が大切である、と。

 

もちろん、仏様の姿、形への気配りも大切な事です。しかし仏様は「祈りの対象」であるので、仏様のご依頼主のお気持ちを大切にくみとりながら彫らせていただく、という気持ちを私が大切にしなくてはならないと気づく事ができるようになったと思います。

 

VATE:実際にはじめて依頼を受けて彫られたわけですが、その仕事はうまくいったのでしょうか?

 

初めていただいた依頼の仏様は、自分にとっていろんな意味で成功だったと思います。自分の中では「祈りの対象」となる仏様を彫る事に強く信念を持って彫り始めましたが、自分のための仏様ではなく、ご住職の「亡くなられたお母様の化身として…」という秘められた気持ちに、どのようにお答えしていけばいいのかということへの葛藤の連続でした。

 

VATE:なるほど。

 

またどのように美しい仏様になっていただくかと悩んでいました。このような中、ご依頼主のご住職が「お代金は分割で毎月一回、寺まで取りに来てください」とおっしゃいました。私はその時、何も感じずに、すぐに「はい」と返事したのですが、これがこの後の私にとって一番大事な事を勉強させていただく事となる転機でした。